今月の提言


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7月の提言:『なぜ価値観が共有化できないのか?』


価値観の共有化は、古くて新しい問題であることを改めて認識した。拙著『ブランディング・カンパニー』の中で述べた「らしさの経営」を実現する第7の成功法則は、「価値観を共有化し、全社一丸となる」であった。多くの方々からコメントをいただいたが、何人かの経営トップの方々の関心はこの共有化にあった(詳しくは拙著第4章を参照)。

例えば、Googleなどの検索エンジンで「価値観」「共有化」などのキーワードを入力して検索すると、実に多くの企業が「価値観の共有化」を重点課題としていることが分かる。裏を返せば、それだけ共有化ができていないということだ。

では、なぜ価値観の共有化が進まないのか。その原因は経営トップや幹部が、共有化の4つのレベルをよく認識していないからだ。つまり、筆者は「共有化」を次の4つのレベルに分けて考えることにしている。

  1. 認知レベル

  2. 理解レベル

  3. 共感レベル

  4. 行動レベル

先ず、「共有化」の第一歩は、価値観や哲学が明確になっており、それを認知させることである。次に、それらを「知っている」だけでなく、意味が分かり、背景などが理解されることが肝要だ。これを理解レベルと呼ぶ。認知され、理解された後は、価値観が心の中に溶け込んで共感し(共感レベル)、そして「やってみよう」という段階になる(行動レベル)。

一口に共有化といっても、この4つのレベルがある。多くの企業が「価値観の共有化」をうたい文句にしても、なかなか浸透しないのは、このレベルをしっかり理解していないからである。

具体的な共有化のプロセスにおいては、それぞれ鍵となるツールを活用すべきだ。認知レベルでは「宣言」を、理解・共感レベルでは「トークショー」を、行動レベルでは「エンパワーメント(権限付与)」及び「行動ルール」などを活用するのである。

なお、ここで「トークショー」とは、ヒューレット・パッカード社CEO・フィオリーナ女史のやり方が有名である。彼女は研究所や現場をトークショーの場として、従業員に方針やビジョンを語りかけ、また現場の率直な意見やアイデアに耳を傾けている。HP社が驚くべき速さで改革を進め、コンパックを買収後も快進撃を続けるのも、フィオリーナ氏によるトークショー効果の現われともいえる。

それから、日産のカルロス・ゴーン氏は現場主義で知られ、就任以来全国の販売店や工場に足を運んで現場の声を直接聞いている。そして、視察中や懇談会の場で、自分の意志や方針を明確に示している。また、従業員との鋭い質問のやり取りも、ゴーン氏が「よいコミュニケーションは、真実のコミュニケーションでなくてはならない」という信念をもって、事実を究明する姿勢を示している。これも現場での「トークショー」ということができる。

「行動ルール」に関してはバクスター社の3つのテストが参考になる。同社は世界の医薬業界でユニークな製品開発力で知られており、自社の価値観を具体的な行動規範集「企業行動世界基準」として全従業員に徹底させている。その中で、問題や困難に直面した際に、従業員に次のように自問自答することを薦めている。

  1. 自分の行おうとする行動は「価値観の共有」を取り入れているか?それは正直で誠実なものですか?(「価値」テスト)

  2. 自分の行おうとする行動はバクスターの『企業行動世界基準』と企業方針・規程に合致していますか?(「方針」テスト)

  3. 自分の行おうとする行動は合法的ですか?法律や規制に違反していませんか?(「合法性」テスト)

ところで、共有化すべきなのは価値観だけではない。ビジョン、戦略、目標、情報など対象となる範囲は広い。環境変化に迅速に対応し、あるいは顧客に対して現場で柔軟に対応するには、全従業員に企業が大事にしている事柄を理解してもらい、行動に結びつくことが肝要だ。いくら現場の裁量に任せるにしても、個人によって対応にばらつきがあっては、ブランド・イメージを損なうことになるからである。

価値観その他の共有化が課題だとお考えの方々は、上述した共有化の4つのレベルを理解してほしい。そして、4つのレベル毎に、自社の企業文化、マネジメントスタイルに合った共有化の仕組みづくりを行うことを提案したい。

但し、拙著のエピローグの冒頭で引用した、今話題の54四半世紀連続増益男、ハロルド・S・ジェニーン(IT&T元会長&CEO)の言葉をかみ締めるべきだ。つまり、「三行の経営論」として知られる次の言葉である。

「本は最初から読みはじめる。だが、ビジネスは逆だ。最後からはじめて、そこに達するためにしなければならないことをする」

価値観などの共有化はそれ自体が目的ではない。これによって何を実現したいのか、この点を明らかにすることは経営トップの重要な仕事だ。はじめに到達点ありきであることを肝に銘じるべきである。



【竹生孝夫(ちくぶ・たかお】



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