これまでの提言


 戻る

10月の提言:『意思決定にゲーム理論を活用せよ!』


最近の企業行動あるいは戦略を観察すると、実にゲーム理論的である。筆者の学生時代は、ゲーム理論といえばきわめて数学的で実務との関連で語られることはあまりなかった。しかしながら、理論経済学を専門とする友人たち曰く、近時の経済学の発展はゲーム理論を抜きには語れないという。

こうした経緯もあって、欧米のビジネススクールでは、戦略的意思決定をゲーム理論のフレームワークを用いて教えている。欧米企業の戦略をみるとゲーム理論のお手本のようなケースが見受けられるのは、このへんに起因するかもしれない。

例えば、米国のシアーズが通販で信頼を得るために導入した返品制度は、シグナリング・ゲームの代表例である。日本でもエディ・バウアーやギャップなどの米国のカジュアル・ファッションの店は返品制度を前面に出してビジネスを行っている。返品は品質を訴求する効果のあるシグナルなのである。消費者は品質の悪い製品を提供する企業は、コスト高になって返品制度が成り立たないことを知っているからである。

8月に米国トイザラスが玩具事業から撤退を検討中との報道があった。トイザラスの玩具部門はウォルマートなどの「プレーヤー」の低価格攻勢により、赤字経営が続いていたからである(その後の報道では5−7月期に黒字転換したため撤退を見直し中)。このケースは単に不採算部門からの撤退というよりも、、ゲーム理論の枠組みでペイオフマトリックス(利得表などともいう)に基づく戦略オプションと考えるべきである。

外国企業のみならず、日本企業の行動もゲーム理論で説明できる。例えば、JALとJASの経営統合のケースをみてみよう。日本の航空業界はこれまでメガキャリアが3社であったが、以前より世界的にみてキャリアが過剰との指摘があった。このため3番手のJASの戦略が業界で注目されていたのである。結論からいえば、JALにとって独占禁止法上ANAとの提携・経営統合は出来ないことを前提にすると、「JASとの提携・経営統合の実現」か「ANAとJASとの提携・経営統合の傍観」の戦略オプションがあった。後者では従来のJAL単独での利得を確保できないため、防衛的に前者を選択したとみることができる。

ところで、9月28日にヤマト運輸は郵政公社を提訴したと発表した。ローソンでの郵政小包「ゆうパック」の取り扱いは、不公平な取引に該当するので中止せよというものだ。このケースもゲーム理論からみれば、ヤマト運輸の提訴は当然だ。もし中止になればローソンのみならず他のコンビニへの波及も防げるので、ヤマトの利得は増加する。もし中止に至らない場合でも、郵政公社の不公平さを世間に知らしめた結果、ヤマトの利得にはマイナス効果があっても、郵政公社の利得の大幅増加を抑制すると期待される。もっと単純に考えて、提訴することによってヤマトの「損失を最小限」にとどめることが出来るのである(これを「ミニマックス戦略」という)。

このように企業の取り巻く環境は、自社の行動のみならず他社の行動や思惑によって利害が左右される「戦略的環境」にある。日本企業においても、ゲーム理論のフレームワークを使った戦略的な意思決定の定着化が求められる所以である。しかしながら、日本企業の現状は経営トップの属人的な戦略眼による戦略的意思決定を除いて、経営スタッフがゲーム理論的発想で戦略オプションを検討して意思決定をサポートしている企業は少ない。欧米企業がゲーム理論の研究成果を活用して意思決定に生かしているのとは大違いである。

筆者は、もし日本企業がゲーム理論を経営のツールとして有効に活用すれば、戦略的意思決定の質は格段に向上すると考える。それには、先ず経営トップがその効果と活用方法を理解し、それから経営企画スタッフにゲーム理論を修得させるべきだ。


【竹生孝夫(ちくぶ・たかお】



【ご案内】5月末に拙著『ブランディング・カンパニー』が上梓されました。詳しくはこちらをご覧下さい!




ホーム当社について戦略コンサルティングと私たち|トップ&ミドルへの提言
コンサルティングのご案内人材募集リンク集サイトマップ

E-mail お問い合わせ
info@csconsult.co.jp
Copyright 1997-, C&S Consultants, Inc. All rights reserved.