今月の提言


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10月の提言:『日本企業のグローバル化を阻害する真の要因は』


何年か前から特にICT(情報通信技術)業界において「ガラパゴス化」が指摘されていた。ガラパゴス化とは日本市場において技術やサービスなどが独自に発展し、世界標準から乖離することをいう。ガラパゴス化によって、日本企業のグローバル化が妨げられているというのだ(注1)。

たとえば、携帯電話、デジタル放送、非接触型ICカードなどの分野がガラパゴス化の代表例だ。携帯電話については、コンテンツやメールの機能は世界で最先端をいく。だが、世界市場におけるニーズと乖離した結果、世界市場でのシェアは低い。読者の方々の中にも使わない機能の多い携帯電話に疑問を持つ向きも多いだろう。地上デジタル技術も日本は世界をリードする。しかしながら、日本方式を採用する国はブラジルのみである。日本において非接触型ICカード市場は急速に拡大している。ところが、日本企業は世界標準とは異なる技術を採用しているため、世界市場へ展開することは難しい。

最近では、ウェブの世界でもガラパゴス化するとの指摘もある。確かにウォール・ストリート・ジャーナルをはじめ欧米のニュースサイトは無料化が進んでいる。一方、日本の新聞はネット上で全文が読めるケースは稀である。その上、ウェブの基本は一つのファイルにパーマリンクを張ることだが、日本の新聞のウェブはほとんどパーマリンクがなく数日するとネットの世界から記事が消える。これではブログも検索エンジンも十分に機能することは不可能だ。このように、日本国内のニュースサイトは「全文を出さずパーマリンクなし」の世界とは異質な仕様が支配しているのである(注2)。

ガラパゴス化現象はICT業界だけに出現するわけではない。たとえば、建設業界をみてみよう。日本の建築技術は耐震技術をはじめ世界有数の技術力を誇る。しかしながら、高コスト構造のせいか国際競争力は弱く、超ドメスティック企業の域を出ていない。また、建材・住宅設備業界も同様な状況にある。他方、サービス産業をみると、外食産業や小売業などグローバル化が進んでいるとは言い難い。これも国内市場でのビジネスモデルの彫琢にしのぎを削るあまり生産性が悪化し、世界に通用するモデルにはなっていないといえよう。小売業ではカジュアルウエア業界のギャップ、ザラ、H&MなどのSPA(製造小売り)、外食産業ではハンバーガー業界のマクドナルド、ピザ業界のピザハットなど海外のグローバル企業が輩出している。これに比べて日本のサービス企業のグローバル化はほとんど進んでいない(注3)。

上述した点を踏まえて、ガラパゴス化現象が生じた要因は次の3点に要約できる。
  1. 日本は豊かな市場に恵まれ、国内市場だけで成長軌道に乗ることができた。
  2. モノにこだわり、高度なニーズを持つ消費者に対応した日本仕様で進化した。
  3. 世界では日本とは異なる機能水準や品質を持つ世界標準が確立。
ところで、ICT業界を含む多くの産業において、日本企業のグローバル化が一部の企業を除いて遅れている理由は「ガラパゴス化現象」にあるのだろうか。筆者は本質は別のところにあると思う。結論は日本企業の経営トップのグローバル化に向けての「戦略的意図」あるいはビジョンの欠如が、グローバル化を妨げていると考える。

もちろん筆者は上述した1や2のような日本市場のもつ特性は理解しているつもりである。だが、日本が南米エクアドルの西約900kmに位置する太平洋上のガラパゴス諸島のように島国で、特異な市場をもつとしても、企業行動に制約があるわけではない。経営トップがグローバル市場で競争するという明確な戦略的意図をもち、10年単位での継続性があれば、ICT業界といえどもガラパゴス化は避けられたはずである。

このように述べると、次のような反論があるかもしれない。知悉している国内市場で業績を向上させることができるのに、よくわからない海外市場へ展開する意味はあるのか、と。10年以上前から少子高齢化で日本の国内市場が縮小することは分かっていたはずだ。よほどの成長分野でない限り、市場の縮小の影響をうけざるをえない。とすれば、中長期的に会社の成長性、収益性を持続しようとすれば、簡単化していえば、水平的M&Aによって同業者と一緒になるか、成長分野へ多角化するか、海外へ展開するか、この3つのオプションしかないのである。ところが、水平的M&Aも成長分野への多角化もそれほど選択肢があるわけではない。優良な相手、有望な多角化分野は限られているのである。このように考えると、本業のビジネスモデルを他の市場で展開する海外進出は、外国アレルギーさえなければ重要な選択肢となる。さらに、ポートフォリオ経営の観点からも、多様な市場で事業を展開することはリスクを分散するメリットがある。

とはいえ、日本企業のグローバル化の道はそれほど容易ではない。これからグローバル化を進めようとする企業は、ソニー、ホンダ及びノキアのような海外進出当時の経営トップの戦略的意図から学ぶべきである。特にサービス産業に関しては、マクドナルドや海外のSPAなどから効率的なビジネスモデルを学ぶことが肝要だ。そして、多様な価値観を認めることができる人材の育成が不可欠である(注4)。

超ドメスティック企業もすでに海外展開を行っている企業も、今一度グローバル化の意義、目的を再考してほしい。そのうえで、10年、20年先を見据えた戦略的意図を持ってグローバル化を推進してはどうか。



注1:
ガラパゴス化に関する記事情報は多いのでここでは紹介しない。ガラパゴス化をテーマにした書籍としては下記を参照.

宮崎智彦『ガラパゴス化する日本の製造業』(東洋経済新報社, 2008年9月)

注2:
日本のウェブのガラパゴス化については下記を参照.

池田信夫の『サイバーリバタリアン』:第35回「ガラパゴス化が進む日本のウェブ」(2008年9月23日公開).

http://ascii.jp/elem/000/000/174/174024/

注3:
回転寿司を例にとったサービス産業のグローバル化に関しては下記を参照.

村上輝康「なぜ日本の寿司屋はグローバル化しないのか」『知的資産創造』(NRI, 2008年8月号).

注4:
日本の小売業や外食産業などのサービス産業はグローバル化が進んでいない.SPAのギャップをモデルにしたといわれるユニクロを展開するファーストリテイリングも当初欧州での展開に失敗した.現在でも07年8月期の連結売上高に占める海外売上高は3%強に過ぎない.なお、最近海外に注力しているMUJIを展開する良品計画の海外売上高比率は10%強である.



【竹生孝夫(ちくぶ・たかお)】

 


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