今月の提言


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5月の提言:『拡グローバル経営の時代』


2008年9月のリーマン・ショック後世界経済は低迷してきたが、ようやく先行きに明るさがみえてきた。日本経済も2010年1-3月期のゲタもあって、10年度の実質GDP成長率はプラス2.4%であると予測されている(注1)。

バブル崩壊後、90年代に学んだ点は、不況期に次の手を着実に打っていたかどうかで次代の勝ち組が決まるということだ。つまり、今こそ戦略、マネジメントのあり方が問われているのである。そこで、今月はマネジメントの時代流れを概観しながら、今何をすべきなのか、その方向を探ってみたい(注2)。

筆者は世界のマネジメントの潮流の変遷を次のように考えている。(括弧内は中心となる年代)

  1. プロダクト・アウトの時代(〜1950年代)
  2. マーケット・インの時代(1960年代〜)
  3. 戦略の時代(1970年代〜)
  4. 競争の時代(1980年代〜)
  5. ネットワークの時代(1990年代〜)
  6. M&Aの時代(2000年代〜)
  7. 拡グローバル経営の時代(2010年代〜)
先ず、経営学の黎明期には科学的管理論から大量生産方式、人間関係論、行動科学へと続く、供給サイドの管理、マネジメントが主流であった。作る側の生産性アップという時代の要請に応えたもので、プロダクト・アウトの時代であったといえる。次に、資本主義社会が発展し、消費行動も成熟化し始めると、大量生産システムを通じて安定的にモノを市場に流すには、市場、顧客の視点からの発想が不可欠であった。このため50年代から60年代以降、マーケティングやマーケティング・リサーチが発展し、マーケット・インの時代になった。

その後、企業が成長し規模が拡大するとともに、また多角化が進むに従って、生産やマーケティングなどの機能別でみた視点を超えて、より複雑な企業組織の行動指針が求められるようになった。60年代からチャンドラーやアンゾフなどの戦略研究が世に出て、事業部制組織や製品ポートフォリオ分析などが戦略づくりのツールとして用いられたのもこの頃だ。このように70年代以降は、多角化し複雑化する企業経営に対応した戦略論が普及した「戦略の時代」といえる。

80年代以降は「競争の時代」である。グローバルな競争環境が激化しはじめると、ポーターの「競争の理論」が一世を風靡した。企業の外部環境や業界でのポジショニングを分析した上で、競争戦略を「集中」「コスト・リーダーシップ」「差別化」の3つに分ける考え方は、シンプルであることとも相俟って世界の企業経営に取り入れられた。競争の戦略は、グローバルなメガ・コンペティションに勝つための戦略フレームを提供したものであった。

90年初めにポーターの競争戦略とは対極あるといわれた「リソース・ベースト・ビュー(RBV)」が注目されるようになった。これは企業内部の経営資源に競争優位の源泉を求めるものだが、提唱者のバーニーも認めるようにRBVだけでは自己完結的な戦略論とはいえない。RBVは戦略の重要な次元の一つである事業領域を決めることはできないからだ。筆者は、実務的にポーターの戦略論とRBVは補完的に活用すればよいと思っている。また、80年代から90年代初頭にかけては、カイゼンやコア・コンピタンスなどのように、日本企業研究が米国流の経営手法として再生された時期でもある。

90年代に入って、インターネットを始めとする情報通信技術の発達によって、ビジネス・システムやマネジメントが大きく変化した。ネットを通じた商取引や社内ネットの活用が進むとともに、戦略提携などのリアルな企業のネットワーク化も進展した。このような「ネットワークの時代」に対応して、Eビジネスあるいはウェブに関するマーケティングや戦略提携を含めた企業グループ経営の新たなパラダイムの構築が進んだ。90年代はバーチャル、リアル両面で「ネットワークの時代」だといえよう。

2000年代の最初の10年は「M&Aの時代」ということができる。欧米ではM&Aの歴史は古いが90年代から21世紀に入って、メガディールといわれる巨額買収が増加し、また特に欧州でクロスボーダー型の買収が増加した。日本では1997年に持株会社が解禁され、99年には株式交換・株式移転の導入、翌2000年には会社分割の導入などM&Aの環境整備が行われた。その結果、日本でも2000年以降M&Aが活発となり、戦略オプションの一つとして定着してきた。リーマンショック後、世界及び日本のM&Aはやや低調になったが、今後もM&Aが企業の重要な選択肢であることは変わらない。

さて、2010年代はどのような時代になるか。筆者は、上述したように「拡グローバル経営の時代」になると思う。先進諸国の成長力が低下する中で、日米欧の企業は国内から海外、特にBRICs諸国をはじめ新興国へと地域的な事業ポートフォリオを拡大することになろう。また、BRICs諸国その他の企業は、先進諸国への展開を模索する動きが更に強まるものと思われる。日本はといえば、少子高齢化の進展で国内市場の縮小が必至である。これまで超ドメスティックといわれた業界も企業も、海外への進出を視野に入れざるをえない。実際、「ユニクロ」や「無印良品(MUJI)」あるいはコンビニ等の小売業、外食産業を見てもすでに海外出店を強化している。超ドメ業界も超ドメ企業にもグローバル経営が「拡大する」という意味で「拡グローバル経営の時代」になるのではないか。

かつて業界トップを争っていた企業は多い。しかしながら、80年代から90年代にかけて、業界トップ企業の海外展開によって二番手以下の企業は大きく差をつけられたケースは多い。当時の日本はまだ国内市場のポテンシャルが残っていたため、海外展開に躊躇してもそれなりに業績を維持することができたのである。だが、この10年、20年で環境は大きく変わる。今こそグローバルな事業ポートフォリオを構築を模索して、「拡グローバル経営の時代」に備えてはどうか。


注1:
内閣府は5月20日に発表した2010年1-3月期の四半期別GDP速報(1次速報値、前期比+1.2%)を発表した。日本経済研究センターのまとめによると,この発表を踏まえて改訂された14の民間調査機関の10年度実質GDP成長率見通しは平均で+2.4%と上方修正された.なお,11年度見通しは前回から変わらず+1.8%であった(詳しくは下記URLを参照).

http://www.jcer.or.jp/research/private/index.html

注2:
2001年11月の「今月の提言」(下記URL)で示した「マネジメントの潮流」を加筆訂正した.

http://www.csconsult.co.jp/teigen/0111.html



【竹生孝夫(ちくぶ・たかお)】

 


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