今月の提言


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3月の提言『資生堂のトップ人事から学ぶ〜後継社長の育成と選任のあり方を問う』

3月11日、新聞各紙は資生堂の末川久幸社長が3月末で退任し、後任として4月から前田新造会長が社長を兼務するというトップ人事を報道した。末川社長は2011年4月に52歳で社長に就任し、わずか2年で退任することになった。このニュースを聞いて、何故と思う人とやはりと思う人がいるだろう。それほど唐突であり、一方で今回の人事の芽は当初からあったともいえる(注1)。

何回か本提言でも主張しているように、筆者は社長は少なくても10年は務めるべきだと考えている。この理由は2つある。まず、社長の在任期間と業績の間には正の相関関係があるということが分かっている。社長が10年以上長期間在任した企業の方が数年しか在任しない企業に比べて成長率、利益率が高い企業群が存在するのである。つまり、社長の長任期は高業績の条件の一つといえる。次に、グローバルな競争環境の変化に適応して変革を実現し成果を出すには、少なくても10年はかかるのである。3期6年で社長が交代するサラリーマン社長の順送り人事では、中長期的視点からの戦略転換は難しいと思うからである(注2)。

今回の人事に至った背景は、業績悪化と健康上の理由だと報道されている。確かに、資生堂は最近の四半期の決算発表で3回連続で業績の下方修正せざるをえないほど厳しい状況にあった。国内市場での低迷と中国事業の行き詰まりが業績を悪化させた直接の原因だといわれている。だが、2012年9月以降の尖閣諸島問題に端を発した日本製品不買運動による影響を除くと、国内市場低迷はTSUBAKIブランドの神通力が通じなくなった前社長時代から続いていたのである。

このような環境下で創業家一族が残っている会社でトップとして全社をリードするには、次の3つが重要である。
  1. 変革を実現する強い意志と実行力があるか。
  2. 創造と破壊をベースに長期ビジョンを確立できるか。
  3. 社内の政治力学を踏まえて強力な支持者に恵まれるか。
今回の場合、変革の意志は強かったものの他が弱かったように思われる。前社長時代に経営計画策定に携わった末川社長であれば、これまでの路線の踏襲はある意味では当然かもしれない。中長期的視点からブランドを再構築することが求められているのだが、価格競争が厳しいネット販売に乗り出すなど小手先の手を打ってきた感が強い。そして、創業家の名誉会長、前社長で現会長の全面的支援を得られなかった点が大きい。

そこで、今回の人事を筆者が「やはり」と思ったのは、2年前の人事の際に次の3つの疑問があったからだ。
  1. 事業のプロではあるが経営のプロとしてはどうか。
  2. 参謀として適任だがトップとしてはどうか。
  3. 陰りのみえる路線を否定できるか。
本来は後継社長として育成するには、参謀や事業のプロではなく経営のプロに変身させることが肝要だ。そして、複数の後継候補を競わせて、従来路線の否定につながるかもしれない新たなビジョンを構築できるかどうかをチェックすべきである。もしこうした視点が欠如していたとすれば、社長の育成の仕方および指名のあり方に問題があるといわざるをえない。

ちなみに、資生堂は「監査役設置会社」で「委員会設置会社」ではないが、後者の利点を取り入れて執行役員制度を導入し、独立役員である社外取締役を委員長とする「役員報酬諮問委員会」および「役員指名諮問委員会」を設置している。しかし、ハイブリッド型と自画自賛する制度も、後継社長の選抜、育成の仕方に問題があれば機能しないのは当然だ(注3)。

今回の資生堂の社長退任で改めて社長の選び方が問われることになる。資生堂を他山の石として学ぶべき社長の条件は次の通りである。
  1. 参謀や事業のプロではなく経営のプロを育成し選任すること。
  2. 少なくとも10年はトップが務まる人物を選ぶこと。
  3. 変革力をもち、体力、気力、胆力に優れていること。
この機会に後継社長の育成と選任のあり方を再考してはどうか。高業績を達成できる企業に変身する道が開かれていることを認識すべき時である。


注1:
今回の社長人事に関して,新聞等の公開情報のほか下記のサイトを参照した.

「資生堂は”負の遺産”を清算できるのか?」東洋経済オンライン(2013年3月18日)

http://toyokeizai.net/articles/-/13292

「インサイドレポート:わずか2年,54歳の若さで相談役に 資生堂の社長はなぜ突然辞めたのか」現代ビジネス(2013年3月25日).

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35232

注2:
社長の任期に関しては下記の拙稿『社長の任期はなぜ10年以上必要か』(2009年7月の提言)を参照のこと.

http://www.csconsult.co.jp/teigen/0907.html

注3:
資生堂のコーポレート・ガバナンスに関しては同社ホームページの下記の「株主・投資家向け情報」を参照.

http://group.shiseido.co.jp/ir/library/esg/governance01.html



【竹生孝央(ちくぶ・たかお)】(2011年より「孝央」と改名しました)

 


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