今月の提言


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5月の提言『イノベーション・スキルを活かすには』

数年前から「コモディティ化の罠」が話題になっている。コモディティ化とは、モノやサービスが普及して他社が提供するモノやサービスと代替してもさほど差がないことをいう。先日あるクライアントとコモディティ化の話をしていたら、イノベーションの難しさの話になった。そして、イノベーションを実現する人材がいないと嘆いていた。

しかしながら、クレイトン・クリステンセンらの有名な研究によれば、ほぼ誰もが有能なイノベーターになれるという。すなわち、「イノベーションの素質は、遺伝的な資質ではなく、必要な能力の3分の2は学習を通じて習得できる」のである。そして、イノベーターに必要なスキルは次の5つであるという(注1)。
  1. 関連付け:一見無関係に見える疑問や問題、アイデアを結びつけ、新しい方向を見出す能力。
  2. 質問力:物事の探求に情熱を燃やし、ありとあらゆる質問をする能力。
  3. 観察力:周りの世界を注意深くうかがい、物事の仕組みを観察する能力。イノベーターのほとんどが熱心な観察者。
  4. ネットワーク力:多様な人々とのネットワークを通じてアイデアを探索する能力。
  5. 実験力:将来成功する方法について手掛かりを得るには、実験に勝る方法はないと信じて実験する能力。
確かに上記の5つのスキルは、イノベーションを推進する個々人の能力として重要だ。スティーブ・ジョブスの名言「創造とは結びつけることだ」やドラッカーの「正しい答えを見つけることではなく、正しい質問を探すことこそが、重要かつ至難の問題だ」などの言葉を想起するのは筆者だけではないだろう。

だが、組織あるいはリーダーが個々人のイノベーションの芽を摘んでしまう可能性も大きい。Innosight社のスコット・アンソニーによれば、意図せずに社内のイノベーションを潰しているのは次の4つのタイプのリーダーだという(注2)。
  1. カウボーイ型
  2. グーグルびいき型
  3. 宇宙飛行士型
  4. 海賊型
まず、カウボーイ型は「イノベーションに限界はない。優れたアイデアであれば何でも歓迎だ」などと無鉄砲なことをいう。無論企業は限界を超えて常に可能性を探っていくことが肝要ではある。しかし、いかなる企業も資源は無限でない以上、「イノベーションに限界はない」というお題目のもとに、闇雲に手を広げてアイデアを生むことは時間の浪費になりがちだ。確実にイノベーションを実現するには的を絞った方がよい。たとえば、米オンラインDVDレンタル会社ネットフリックスは数年前、顧客への映画推薦システムの精度を10%以上向上させたチームに、100万ドルの賞金を与えた。250を超えるチームが応募しうち2チームが目標を達成したという。集中はイノベーションの友なのである。

次に、3Mの15%ルールは有名である。一方、グーグルには勤務時間の20%を新たなアイデアの創出に使うルールがある。こうしたやり方を模倣して自社の全従業員にも、イノベーションに一定時間を割くよう要求するトップもいる。この方法は一見するとイノベーションへの幅広い参加を促す上で効果的にみえる。だが、3Mやグーグルのように組織にアイデアを取捨選択し育てる高度な仕組みがビルトインされていない限り、このやり方でうまくいくことはほとんどないであろう。こうした取り組みは多くの場合、決して採用されることのない長大な提案リストを生む結果となる。それよりも、少数のメンバーを選び、イノベーションに十分な時間を費やした方が効果的であることが多い。

宇宙飛行士タイプは、「我々に必要なのは、何か壮大な取り組みだ。月ロケットの打ち上げに匹敵する、起死回生の一発になるものはないだろうか」と問いかける。もちろん、こうした壮大な目標を掲げることはいいことだ。だが、こうした壮大なビジョンにこだわり過ぎると、かつてのモトローラのイリジウムのように会社の存亡を賭けるようなリスクの多いプロジェクトばかりになる。最良のアイデアは実験と試行錯誤の繰り返しから生まれることは研究者と起業家の間で意見は一致している。トーマス・エジソンの名言を待つまでもなく、まずは一歩一歩汗をかくことから始めることだ。

最後に、海賊タイプのリーダーは「わが社はイノベーションの予算枠など設けていない。だがそれで問題ない。資金は必要になったら調達する」という。これは予算枠の自由度が高く起業家精神が旺盛のようにみえるが、実は経営資源を獲得するための明確なルールがない証拠ともいえる。それゆえ、さまざまなステークホルダーたちとの打ち合わせが延々と続き、タイムリーな意思決定ができなくなることが多い。優れた企業はイノベーションを体系的に管理し、イノベーションのための予算を設定し、資金の調達と配分に関する明確なルールを設けている。

以上、イノベーションを潰す4つのタイプのリーダーについて要約した。個々人のイノベーション・スキルが優れていても、組織としてイノベーションが実現できない企業は多い。もしこの4つに該当する経営トップ、幹部がいたとすれば、明日からイノベーションの「テーマを絞る」「人を絞る」、そして「着眼大局・着手小局」を肝に銘じて「資源配分のルール化」を実践してほしい。


注1:
クレイトン・クリステンセンの研究結果は下記の著書を参照.

クレイトン・クリステンセン,ジェフリー・ダイアー, ハル・グレガーセン, (櫻井 祐子訳) 『イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル』翔泳社 (2012/1/18).

注2:
イノベーションを潰す4つのタイプのリーダーに関しては下記を参照した.

Scott Anthony, "The Four Worst Innovation Assassins," HBR blog, April 18, 2012.

http://blogs.hbr.org/anthony/2012/04/the_four_worst_innovation_assa.html



【竹生孝央(ちくぶ・たかお)】(2011年より「孝央」と改名しました)

 


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