今月の提言


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6月の提言『ダイバーシティ経営の推進で何が変わるか』

近年、米国企業の経営トップに女性が就任するケースが目につく。昨年7月にヤフーの社長兼最高経営責任者(CEO)に就任したマリッサ・メイヤー氏(元グーグル副社長)、一昨年9月にヒューレット・パッカード(HP)のCEOに就任したメグ・ホイットマン氏(元イーベイ経営者)のほか、IBM、デュポン、ペプシコなども女性CEOだ(注1)。

それでも米国の大企業の女性CEOの割合はまだ数パーセントなのである。ダイバーシティ・マネジメントを支援するNPO法人カタリストによると、全米売上高上位500社のうち女性CEOはヤフーのメイヤー氏が20人目だ。そしてフォーチュン1000、つまり売上高上位1000社では女性CEOはわずか35社に過ぎないという(筆者注:2012年5月現在)。そして、フォーチュン500企業のうち約73%が現在少なくとも1人の女性幹部を有しているが、幹部に占める女性の割合は14%にとどまる。それでも2017年までに米国主要企業の女性CEOが倍増するとみる向きもある。

一方、日本はどうか。 東京商工リサーチの調べによると、上場企業の女性社長は26名だという。全上場会社数は3,551社(2013年6月24日現在)なので、1%にも満たないことになる。ちなみに、東証1部上場企業1,695社(2012年12月末時点)の中で常勤の女性取締役が1人以上いるのは71社、約4%に過ぎない。このように女性の活用に関して米国企業と日本企業との差は大である(注2)。

ところで、今、わが国で女性の社長、役員への登用が話題になっているのは「組織の上位役職への女性の参画が高い組織はパフォーマンスが高い」というカタリストの調査結果の影響が大きいと思う。この4月に安倍首相が経済3団体に対して、上場企業の役員のうち1人は女性をと要請したのもこの調査結果を一つの根拠にしている(注3)。

調査は2001年〜2004年の間にフォーチュン500に掲載された企業を対象として、役員会における女性比率の高い順に第1から第4の4グループに分け、この間の各社の業績の平均値を分析。最も女性比率が高かった第1のグループの自己資本利益率(ROE;Return On Equity19)は、最も女性比率の低かった第4のグループの値よりも53%高い結果となった。同様に売上高利益率,投下資本利益率でも第1のグループの値が第4のグループの値を上回り、女性役員比率の高い企業の方が高い業績を上げているという。

しかしながら、この調査結果からは、女性の役員・幹部が多いからパフォーマンスがいいのか、それともパフォーマンスが高いから結果として女性役員・幹部を登用しやすい環境にあるのかは不明である。つまり、逆の因果関係がある可能性を否定できない(これは専門的には内生性の問題という)。また、企業規模や業種によっても女性の登用によるパフォーマンスは異なるであろう。

それでも、女性の役員、幹部への登用が話題になるのは、女性の積極的活用をはじめとする「ダイバーシティ経営」を推進せざるをえない背景があるからだ。つまり、次の3点の背景が考えられる(注4)。
  1. グローバル化の進展による人材の多様化の必要性の高まり。
  2. 縮小する国内市場において女性顧客向け戦略の見直しによる潜在需要の喚起が必要。
  3. SRI(社会的責任投資)による資金調達への関心の高まり。
こうした背景のもとで、良質な未利用経営資源である女性の積極的登用を行い、新たな価値創造企業として変身しようというのがダイバーシティ経営なのである。ダイバーシティ経営の推進によって次の3つの効果が期待できる。
  1. 女性の視点・センスを活かした商品・サービスや業務のイノベーションの実現。
  2. 企業評価、企業イメージの向上による人材確保面での持続的優位性。
  3. 企業内のモチベーションの向上。
現状の女性の雇用実態や雇用慣行をみると、女性の就業率の低さが目につく。特に、M字カーブで知られるように子育て世代の就業率は低い。また、女性の雇用が増加しているものの非正規雇用者が多数を占めるなど、女性が役員や幹部として活躍できる環境にあるとはいえない現状がある。

上述したダイバーシティ効果によって業績面に顕著にプラスの影響が出そうな業種は、消費財メーカーや小売業、外食産業をはじめとして少なくない。まずは、自社の現実を踏まえて、女性の働く場としての環境を改革してはどうだろうか。それには、経営トップがその気になって、先頭に立って意識改革をするべきだろう。そして、10年スパンでモデルケースを作ってみてはどうか。近い将来、ダイバーシティ経営を推進して企業価値を高めた企業が続出することを期待したい。


注1:
米国の女性CEOや女性幹部の現状については主に下記を参照した.

「米企業で一層多くの女性CEO誕生か」(2012年5月1日, WSJ日本版 ONLINE)
http://jp.wsj.com/Business-Companies/node_435991

「【投票】なぜ日本には女性CEOが少ないのか」(2012年5月2日, WSJ日本版 ONLINE)
http://jp.wsj.com/japanrealtime/blog/archives/11003/

「米IT 女性CEO続々…『新しい顔』存在感」(2012年7月19日, YOMIURI ONLINE)
http://www.yomiuri.co.jp/komachi/news/20120719-OYT8T00506.html

注2:
日本の女性社長については2012年12月に公表された下記の東京商工リサーチの調査結果を参照.

「『全国女性社長』調査 〜 社長の10人に1人が女性 女性社長率は『西高東低』の傾向」
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/2012/1224152_2004.html

注3:
カタリストによる調査結果は内閣府男女共同参画局ホームページを参照(文中でCとあるのがカタリストである).

「【企業における女性リーダーの重要性】組織の上位役職への女性の参画が高い組織はパフォーマンスが高い」

http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h22/zentai/html/column/clm_08.html

注4:
ダイバーシティ経営に関しては,経済産業省委託事業「平成23(2011)年度企業におけるダイバーシティに関する経営効果等に関する調査研究」の下記の報告書を参考にした.

「ダイバーシティと女性活躍の推進」
http://www.meti.go.jp/press/2011/03/20120301003/20120301003-2.pdf



【竹生孝央(ちくぶ・たかお)】(2011年より「孝央」と改名しました)

 


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