今月の提言


 戻る

4月の提言:『サービス産業の高付加価値化を考える』

サービス産業の生産性向上が叫ばれて久しい。日本のGDPが成長するには、労働や資本の伸びが期待できない以上、技術進歩やイノベーションを意味する全要素生産性(TFP)の向上が不可欠だからである。そして、製造業の生産性は欧米企業と遜色がなく、生産性が低いサービス産業を底上げすることで成長率の向上が期待できるからだ。

出所:池永肇恵「『創造的ものづくり』と『高付加価値サービス』が新しい中間層を生む」(2013年5月27日付け日経ビジネスONLINE)

上のグラフは製造業の付加価値の成長に対して、労働と資本の投入、TFPの上昇率がどの程度寄与しているかを示したものだ。下は非製造業(住宅・分類不明を除く)のグラフである(注1)。

製造業をみると、TFPの上昇が労働や資本の投入の寄与を上回って付加価値の成長に寄与してきたことがわかる。特に1990年以降は資本投入つまり投資とTFP向上が付加価値成長の源泉だった。他方、非製造業では資本投入によって付加価値の成長は支えられてきた。1990年以降は非製造業のTFPは低下が付加価値成長の足を引っ張る形だ。非製造業の付加価値を高めるにはTFPの上昇が不可欠であり、それには技術進歩や効率性を改善するイノベーションが必要なのである。

ところで、2013年10月から経済産業省の「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」が開催されている。今年の3月18日に開催された第3回研究会の配布資料をみると、日本のサービス産業の問題点がわかる。配布資料で指摘されている主なポイントは以下の通り(注2)。
  1. 日本では英米に比べて価格競争型ビジネスモデルが主流。
  2. 小売業、宿泊業、卸売業といったサービス産業は、製造業より営業利益率は低い。かつ、たとえば米国の小売業と比べて営業利益率、純利益率ともに低い。
  3. 日本のサービス産業は、米英と比べ無形資産投資が少なく、特にマーケティング投資を含む競争力向上のための投資が少。
上記の3点の背景になったデータを配布資料からピックアップすると次の通りである。日本のサービス企業の75%は価格競争型のビジネスモデルだが、英米の企業は50%以下である。また主な産業の営業利益率をみると、通信業は14.9%、一般機械器具製造業は6.0%に対して、小売業は4.3%、宿泊業は3.4%、卸売業は1.7%とサービス産業の営業利益率は低い。さらに、サービス産業の粗付加価値額に占める無形資産投資額に関して日米英を比較すると、日本は」相対的に少ない。ちなみに、無形資産投資とは、ソフトウェア、データベースなどのIT投資、研究開発投資及び人材投資、ブランディング投資、マーケティング投資などの競争力向上のための投資である。特に、競争力向上のための投資は、日本は3.5%、英国は8.5%、米国は6.2%(ただし米のみ全産業)と少ない(注3)。

つまり、やや乱暴なストーリーだが、日本のサービス企業は価格競争型ビジネスモデルで、英米に比べて営業利益率も低い。そして、競争力を高めるための投資も十分でないということになる。それゆえ、企業によるビジネスモデルの革新が重要で、特にICT技術を使ったデータを利活用したビジネスモデルの革新が期待できると結論付けている。この研究会のメンバーには日立製作所、富士通、IBMなどが参加しているせいか、これではビッグデータの活用によるビジネスモデル改革という結論ありきの研究会かと思われても仕方がない。

サービス産業の高付加価値化を実現するには、ビッグデータよりももっとやるべきことがある。確かに日本は米国に比べてビッグデータに対する認識も低いし、活用も進んでいない。しかしながら、付加価値を高めるための本質的な要因を踏まえなければよい戦略もポリシーも生まれるわけがない。基本的なことはサービス産業が付加価値を高めるには、現状のサービスのもとでコストを下げるか、より高い価格で提供できるサービスを開発するかである。従って、サービス産業の高付加価値化は次の3点に要約される(注4)。
  1. 業務改革等のイノベーションによるコスト削減。
  2. より高い価格での提供が受け入れられる高付加価値サービスの模索。
  3. 他社にない差別化サービスの提供。
以上、サービス産業の高付加価値化について述べてきた。製造業も業種によっては付加価値が低下している現在、サービス産業は無論のこと製造業も「サービス」の高付加価値化を模索することをお勧めしたい。


注1:
池永肇恵「『創造的ものづくり』と『高付加価値サービス』が新しい中間層を生む:『人間ならではの得意分野』を生かす仕事の創出を」(2013年5月27日付け日経ビジネスONLINE)

http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130522/248450/?P=1

注2:
サービス産業の高付加価値化に関する研究会(第3回)配布資料「資料6:ビジネスモデル革新について」を参照.

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/shoujo/service_koufukakachi/pdf/003_06_00.pdf

注3:
各データの出所に関しては注2の資料を参照のこと.

注4:
ブルー・オ−シャン戦略でいうところのコストを下げながら買い手にとっての価値を高める「バリュー・イノベーション」ということもできる.



【竹生孝央(ちくぶ・たかお)】(2011年より「孝央」と改名しました)

 


ホーム当社について戦略コンサルティングと私たち|トップ&ミドルへの提言
コンサルティングのご案内人材募集リンク集サイトマップ

E-mail お問い合わせ
info@csconsult.co.jp
Copyright 1997-, C&S Consultants, Inc. All rights reserved.